第四回 動く立体を平面化する

エンジンで移動するクルマや飛行機と違って、ヒトは体のあらゆる部分を変化させながら移動します。機能ウエアは、その体の変化に無理なく対応させることが必要条件です。
変化しながら動く立体、つまり四次元的要素を二次元の平面に置き換えて、三次元的な立体にする。変化する人体を考察していけば可能となります。

4方位の必然性

成人の骨の数は200個ほどあります。そのすべてが関節でつながり、ねじれたり、ずれたり、回ったりと多様な動きをします。しかし、全体で見るとそれぞれがリズミカルに関連して、姿勢を保っています。


図1は、関節を動かす筋肉を側面から見た模式図です。前側と後ろ側の筋群が拮抗し、片側か縮むと片側が伸びるという作用で、関節を動かします。

前側と後ろ側の筋形バランスの変化で、反身形態(図2) や屈伸形態(図3) になります。

変化した体型に無理なくウエアをフィットさせるには、前身頃と後身頃の長さや、前巾と背巾の拮抗関係を整理してパターン調節することで可能となります。

しかし、図4や図5のように、体を深く前屈したり、回旋した時にも、無理なくウエアを体に合わせるには、前後身頃の寸法調整だけでは、とうてい無理で、前後身頃の寸法差を吸収するパーツ、脇見頃のアジャスター機能が必要となってきます。前後身頃2枚で胴体部分を包むタイプから、4方向から体を包む形になります。
機能ウエアを作るには、最小限4方位、上下を入れると6方位で面を構成する必然性があり、それにより運動量のコントロールが可能になるのです。
つまり、立体に不可欠な側面性が、動体では前後の運動機能をはたすことになります。

皮神経の境界線を機能ウエアに生かす

胴体の運動量がコントロールできたとして、次に、腕や脚の大きく複雑な動きにはどう対処すればよいのでしょうか。

腕の上げやすさは、袖山の高さで調節するのが一般的ですが、限界があります。たとえ袖山をゼロに設定したとしても、腕を肩より上方に上げると脇や腕回りがひきつれます(図6)。

アームホールと袖は、動きの少ない体にきれいに合わせるという点で、造形的にとても美しく、経済的に見ても用尺のかからない優れものです。しかし、運動量が大きくなった時、袖のないランニングが最も動きやすく感じるのは、その分袖付けがつれているからです。

それでは、機能ウエアの為の動きやすい袖付けには、どのような切り替え線が求められるのでしょうか。


皮膚にはアームホールのような継ぎ目はありません。しかし、皮膚を支配する皮神経には境界線(皮節構造線)があります(図7)。前は、ウエストからバストポイントを通過し、前腋窩 (図9)を通って指先へ抜け、後ろもウエストから後腋窩(図9)を通過して指先に抜けます。つまり、プリンセスラインが袖口までつながっているのです。サイドには脇線に似た境界線があり、袖下線を通過して手首にぬけ、肩は前後のヨークに似た線がそのまま手首までつながります。


皮節構造線はヨークやプリンセスラインといった、私たちが経験的に作り出してきたデザイン線にきわめて近い位置を通過していますが、決定的な違いは、アームホールがなく身頃と袖がつながっている、ということです。これは、ヒトの”成り立ち” 進化をみれば当然の事と言えるかもしれません。胴から手足がはえだした時、体幹の皮神経が手足に向かって伸びてきたのです。

解剖では、肩線、アームホール線を設定して、皮膚をはがすこともできますし、皮節構造線にメスを入れて皮膚を平面化していくこともできます。双方の違いは顕著で、アームホール線で皮膚をカットするより皮節構造線に沿ってカットをした方が、格段に皮膚を平面化しやすいのです。しかも脇の下、腋底の部分の運動量がコントロールできます。動きを平面化しやすいカッティング、つまり動体裁断です。

一方、脚のほうには、皮節構造線が2本しかありません(図6)。第2回のレスリングウエアで取り上げたように、この構造線を利用すると、運動量がコントロールしやすく、図10のように、皮節構造線1本で機能的なスパッツを作成することも可能です。

4次元を平面化する

図11は皮節構造線をデザイン線にしながら、腕の運動機能をパターンにいれたコートです。

作成にあたっての注意点は、まず前後の腋窩周辺を通るプリンセスラインの原型をきちんと作ります。事前に肩傾斜をゆるくし、袖山を低くする準備も必要です。そして、脇から袖下を一続きにつなげます。この時、前脇パーツA の角度と後脇パーツB の角度の関係が A > B となるようにカマ底に運動量を入れます。腕を前方に、吊革につかまるように上げると、身頃から腕にかけての角度は、後ろより前の角度が大きくなるからです。前後のヨーク線を下げてくれば、袖は皮節構造線と同じ、三面で作ることもできます。
三次元の立体を平面にする事は比較的容易です。例えばサイコロの平面図ならすぐに思い浮かぶ人も多いでしょう。しかし、”立体が動く”という四次元的要素を平面にするのは簡単ではありません。そこに、機能ウエアの難しさ、楽しさ、奥深さがあるのです。